作り手の声:陶芸家 山本英樹さん(JP ONLY)
現在、作品展開催中の山本英樹さんに、展示作品を中心にお話を伺いました。
Q1:山本さんの代名詞ともいえる玄釉について、特徴を教えてください。また、どのような経緯で開発されましたか?
25、6歳くらいの時に、ルーシー・リーの作品集を見たことがきっかけでした。その作品自体は金の発色が強いもので、面白いなと思い自分でも模倣してみようと釉薬の試験を続けていました。その後、番浦師匠の元へ修行に行くことになり、釉薬研究は中断しましたが、修行後に再開し、釉薬の配合をいろいろと試しながら質感を追究していました。そうしているうちに、金の発色が徐々に黒くなっていき、最終的にこれ(玄釉)に。「玄釉」の名称は師匠の玄釉(※1)から頂戴したものです。釉薬開発当時は、料理の器としては白の粉引が主流で、黒の器に抵抗を示す方もいました。それでも「人がやっていないことをやりたい」という思いと、玄釉の良さを信じて作り続けていたら、「黒は料理を一層引き立てる色」との巷の評判も高まってきて、徐々に黒(玄釉)でご飯を食べていけるようになりました。
※1:番浦史郎さんが製作していた黒い器。山本さんの玄釉とはテイストが異なる。
Q2:玄釉の他にも三島手や硝子釉、金彩釉、黒フリット釉、白焼き〆、粉引などさまざまな種類の釉薬や技法を駆使されていますが、それぞれの特徴を教えてください。
・三島手…印花などの印判を当てて模様を入れ、そこに化粧土を塗り込みます。その後、表面の化粧土を削り製作しています。本来の伝統的な三島手と違って、自分はカジュアルなものも製作しています。
・硝子釉…硝子釉と長石を配合した釉薬です。
・金彩釉…玄釉の親戚のような釉薬。より金色に発色しやすい玄釉、というイメージです。
・黒フリット釉…もう一つの「黒」を追究して生まれた色。鉄の絵の具に硝子釉を施釉して作っています。硝子釉自体、窯の雰囲気で変化しやすく面白い表情を見せてくれます。
・白焼き〆…白の泥漿をスポンジで軽く叩き、風合いを生み出しています。
・粉引…鉄分の多い土に白化粧土を被せて白っぽく仕上げています。とてもメジャーな技法の一つです。
Q3:作陶の際にこだわっていることがあれば教えてください。
「使える」ことを前提に製作しています。使いやすさばかりではデザイン的につまらなくなるし、デザインばかりでも使いづらくなるかもしれない。そのあたりはバランスですよね。それと、時代の流行りというものも、少し意識して作っています。歳とともに、その感覚がずれていくんじゃないかという怖さも少しはあるけどね(笑)。
Q4:今回の作品展のテーマ「食のうつわ、円熟の美」について。家庭、飲食店など、さまざまな場面での「食」がありますが、お料理と器についてどのようにお考えでしょうか。制作の上での思いをお聞かせください。
魯山人も言ったように、器は料理の着物みたいなもの。料理を引き立てる方が良いし、料理を邪魔しないようにと考えています。料理や草花を載せた時に完成してくれたら良いんじゃないかな。作為が出過ぎないよう控えめに、それでいて美しい佇まいを目指しています。
Q5:今回の作品展で新たに挑戦されたことがあれば教えてください。
挑戦は苦手で(笑)。自分が作っている物の延長線ですよね、常に。日々、作陶する中での現在の到達点と思っていただければ。
Q6:今回の一押しの作品、自信作を教えてください。
どれも気に入っていますが、壺は気合を入れて作りました。食器に関しては「硝子釉刷毛目菓子鉢Φ23」。この季節に合う硝子釉の鉢で、そうめんや冷麺を食べるのに良いなと思いながら作りました。
Q7:番浦史郎さんに師事されていますが、師匠から学んだことや弟子時代のエピゾードなどがあれば教えてください。
弟子時代のエピソードは面白い話が沢山ありますが、今度ゆっくり…。私の周りには怪物みたいな人が何人かいて、その中でも一番の怪物が師匠。平成の魯山人と言われたほどの人ですから。豪快な人だけれど、作品はとても大胆かつ繊細でね。お客様を招いて、師匠と奥さんが手ずから料理を作り、宴が始まると弟子たちで配膳をしていました。お客様は文化人や政治家、スポーツ選手など、滅多にお目にかかることのできない各界の著名人ばかり。そこで器に料理を盛り、お客様にお出しするという経験をさせてもらったことで、器と料理についての意識が随分変わりましたね。修行時代、朝9時から夕方6時までは注文品を兄弟子と共に作り、夜にお客様がいらっしゃる日は、宴の準備や手伝い。それ以外の自由な時間は自分の作りたいものを作っていました。作陶について師匠から細々としたことを言われることはなかったけれど、師匠の作陶姿は何時間でも見ていて良かったので、ひたすら見て学びました。(師匠はろくろを挽くのが)ものすごく上手くて、ものすごく速かった。とてもじゃないけれど真似できない、今でもそう思います。
Q8:日々の暮らしの中で大切にしていることや、毎日欠かさず行うことなどがあれば教えてください。
特に意識しているわけではないですが、結局、今自分にあるものしか表現出来ないし、ものづくりには日々の生活が表れると思います。現状に満足せず、より良いものを作ろうと常に考え精進しています。
Q9:器をお使いいただくお客様へメッセージをお願いします。
ご自由に使ってください。何を盛り付けなければならないとか、作品の向きにはこだわらず、器はその人のものだから。ご自身が良いと思うように、ご自由にお使いいただけたらと思います。
<作品展情報>
山本英樹 作品展「食のうつわ、円熟の美」
日時:2021年7月1日(木)- 7月21日(水)
10:00-18:00 *日・祝は定休
https://store.hulsgallerytokyo.com/collections/202107-hidekiyamamoto