作り手の声:高野竹工(JP ONLY)
HULS Gallery Tokyoにて2022年7月8日から23日まで開催中の「これからの工芸 小倉 縞縞・高野竹工 展」。昨今、工芸の世界にも広がっているサステナブルなものづくりに焦点を当てた企画展です。本展に合わせ、京都の竹工芸メーカー「高野竹工」にお話を伺いました。
- まず、「高野竹工」の特徴やこだわりについて教えてください。
高野竹工創業者で茶道具職人であった高野宗陵は、自然の竹の美を茶道具に取り入れた千利休の心眼に深く感銘を受けこの道に入りました。高野竹工創業後は、ものづくりの素材を見極める感性や道具へと仕立てるさまざまな技を職人たちに伝え、宗陵亡き後も、その精神は次世代の職人たちに受け継がれています。
私たちが工房を構える京都府長岡京は、国内でも良質な竹の産地として有名です。放置竹林の問題が深刻な昨今ですが、高野竹工は地元西山地区の竹林を整備しながら、日々竹の成長を見守り、材料となる竹を選定・伐採しています。そして良質な竹材にするために手間暇かけて油抜き※1をし、虫がつかないように気を配りながら数年しっかりと乾燥させます。そうして大事に保管してきた竹を次の製作工程で使用します。
竹工芸から始まった高野竹工ですが、現在は竹だけでなく木工、特に寺社仏閣などの古材や倒木材を利用したものづくりも行っています。形や技術は人の手でコントロールする部分であり、お客様もまず目につくところかと思いますが、高野竹工のものづくりの根底には常に素材というものがあり、素材自身の持つ歴史や個性を大事にしています。
※1 竹材を充分に乾燥させるために必要な工程。炭火やガスバーナーであぶる「乾式」と熱湯で煮沸する「湿式」の2つの方法がある。
- 素材としての竹の魅力とはどのようなところでしょうか。
竹は日本に自生する植物であり、古来日本人の生活に欠かすことのできない素材でした。石油製品が普及する前は、生活道具の多くに竹が利用されていました。しなりがあり、かつ強靭な性質を持つ竹は、編んで籠などにしたり、空洞の形状をそのまま活かして器にしたり、建物の内・外装に使われたりとその利用範囲は多岐に渡ります。茶道の世界では、個々の形や表面に現れる紋様など竹一本一本が持つ個性に美を見出し、それを最大限に活かしたものづくりが行われてきました。
高野竹工でもそうした竹の特質を活用してさまざまな製品作りをしています。なかでも箸は、竹のしなりや強靭さを活かし、茶杓製作などで培った竹への細かなこだわりをもって作られています。また、竹花入れなど一本一本の竹の個性を引き出す製品作りにも力を入れています。
- 最近関心が高まっているSDGsについて、意識されていることや取り組んでいることはありますか。
高野竹工のものづくりは、地元の竹や、寺社仏閣の古材または倒木材などを利用して行ってきましたので、もともとSDGsの要素を含んでいたと思います。とはいえ、製作過程では常に端材が出ますので、SDGsの視点を意識的に取り入れて、端材の有効な利用方法などを模索しています。まだ一部ですが、製作途上に出る竹の粉を竹林に蒔いて竹の生育環境の向上に利用するといったことも行っています。循環を意識して、今後もこういった取り組みを広げていければと思います。
また、放置竹林問題の解決のために、地元の竹林整備などのボランティア活動にも参加しています。過去5年ほど参加してきた淀川河川公園での「淀川管内河川レンジャー※2」の取り組みでは、今年5月にようやく遊歩道が完成し、姫蛍の鑑賞会も開かれました。
※2 住民と行政の間に立って、淀川の管理・整備に関する活動を行う人や団体。
- これからもものづくりを続けていくために、何が必要だとお考えですか。
日本では、作り手がさまざまな自然素材の特質に敬意を払いながら、その魅力を最大限に引き出すものづくりが行われてきました。日本工芸の最大の魅力は、そうした作り手と自然が協働で作り出す美しさにあると思います。竹は、一度は石油製品に置き換えられてしまいましたが、今また自然素材へと回帰する価値観の転換が起こっています。新しい技術や感性で竹を有効に利用し、現代の生活の中で当たり前に竹が活躍する、そんな風景が見られることを願っています。これだけ物があふれた世の中にあって、私たちが物を作っていくことの意味を問い続けながら、作り手の責任として環境への配慮や端材の有効利用を意識していきたいと思います。
- お客様に向けたメッセージをお願いします。
高野竹工は、自社で手間暇をかけて整備・製材した竹や、寺社仏閣の古材や倒木材などを使ってものづくりをしています。デザインや使い勝手はもちろんですが、素材となっている竹や木材の辿ってきた歴史、それぞれが持つ唯一無二の個性にぜひ注目いただければと思います。また、石油製品にはない、自然素材特有の質感や存在感を「使う」という行為を通して体で感じていただき、自然素材の心地よさをお伝えできればと思います。
高野竹工コレクションページ:
https://store.hulsgallerytokyo.com/collections/takanochikko