作り手の声:陶芸家 樽田裕史さん(JP ONLY)
HULS Gallery Tokyoにて2023年3月3日から15日まで開催された、愛知県瀬戸市在住の陶芸家 樽田裕史さんの作品展『光を手に』。樽田さんは、透かし彫りに透明釉を充填することで光が透ける効果を生む、「蛍手」と呼ばれる技術に特化した作品を制作されています。今回の企画展に合わせて、作品の見どころやご自身の活動についてお話を伺いました。
- はじめに、陶芸家になったきっかけを教えてください。
高校受験のとき、勉強があまり好きではなかったので普通科以外の学校を調べていて、窯業高校を見つけました。もともと図工は好きだったので興味が湧いて、父と瀬戸の陶磁美術館へ陶芸体験に行ってみたら面白くて。瀬戸の窯業高校に進学することにしました。
高校では実習で粘土を触ったりろくろを挽いたりして、3年間やきものを学びました。卒業後は就職する人が多い中、僕は通っていた窯業高校の専攻科へ進学しました。当時から陶芸家を目指していたわけではなかったのですが、ものを作るのは面白かったので続けることにしました。それと、もう少し遊んでいたかったから(笑)。
専攻科を卒業した後は、ちょうど新しい弟子を探していた同じ学校出身の師匠(波多野正典氏)に弟子入りしました。5年間師事し、その後も母校で働きながら作品を作ってコンペに出品したり、たまに展示をさせていただいたり。そうして続けているうちに、自然と陶芸の道に入っていったという感じです。
- 線の蛍手という樽田さんのスタイルはどのように生まれたのですか。
師匠は土ものの作家でしたが、僕は土ものより磁器ものが好きで、蛍手にも興味がありました。弟子時代、休憩時間に師匠といろんな話をする中で、雲間から射す光や扉を開けたときの隙間の光がかっこよくて好きだと言ったら、師匠が「線の蛍手は見たことがない」と。丸の蛍手は素敵な作品を作っている方がいたので、僕は線の蛍手を、好きな青白磁でやってみることにしました。
23歳のときに始めて以来、ずっとこのスタイルです。違う素材を組み合わせたら面白いかなと思い、木工の訓練校を受けたり、ガラスに触れてみたこともありますが、自分でやるよりそれぞれの作家さんとコラボレーションする方がいいなと。自分の表現でどこまでやれるだろうと悩んだこともありましたが、ワーキングホリデーでヨーロッパに行った経験は大きかったです。縁あって陶芸学校や陶芸家を訪ねたときに、自分の作品を見せたらすごく反応がよくて。自分のやっていることは間違いじゃないんだという手応えがありました。僕の作品は日本だとヨーロッパっぽいと言われることが多かったのですが、向こうでは逆にアジアっぽいと言われたのも新鮮な驚きでした。
蛍手を続けてきたのは、最初失敗ばかりで悔しかったというのもあります。ヒビが入ったり割れたり、彫った部分が釉薬で埋まらなかったり。10年くらいやってきて、最近は線を斜めにしたり幅を広げたりと技術的にもより難しいことを試みていますが、ようやく思い通りにできるようになってきたかなという感じです。でもまだまだですね。師匠に「一つのことを極めるのは大変だぞ」と言われていたけれど、本当にそうだなと思います。
- 本展に合わせて作っていただいた、新作の宝瓶についてお聞かせください。
まずはいろいろな宝瓶を調べるところから始まり、試作品を作って、アドバイスをもらいながら調整していきました。手探りでしたね。道具としての使いやすさも必要ですが、自分が綺麗だと思う形にしたいので、そのバランスが難しかったです。例えば、平たくすると持ちやすいけれど、蛍手の技法の良さが出ないとか。試行錯誤して、今回のような形に仕上がりました。蓋に隙間ができてしまうので、大きめの茶葉にするなど工夫しながら使ってもらえたらと思います。新しいものを作るのは楽しいですけれど難しいですね。
- 自信作はありますか。
《光纏ウ》のアートピースは、今制作できる中でも大きい部類の作品です。大きいほど蛍手の線も長くなり、割れるリスクがあって難しいのですが、よくできたかなと思います。あと、普段は彫らない内側に細く線を入れているのも特徴です。この作品に限らず、ときどき彫り方にアレンジを加えて、印象がどのように変化するか試しています。
あとは、《一線ノ光 抹茶碗》も見てほしいです。蛍手の線が一本だけの作品です。線が多い方が手も込んで見えるし安心するけれど、あえて一本で勝負するのもいいなと。ほかの作品と違って、素地が柔らかい状態のときに貫通させて、指で押したりして成形しています。彫りなどでエッジを出しつつも、柔らかさを表現したくて。この作品は、ルーチョ・フォンタナという現代美術作家の、キャンバスを切り裂いた作品からもインスピレーションを得ています。切り裂いた一本の線だけで空間を作っちゃうところがすごいなと思って。
- これから挑戦してみたいことはありますか。
僕は食器など機能的な制約があるものの方が作りやすいし好きで、自由に表現するオブジェなどは苦手なんです。でも最近は、そこから脱却したいと思っています。展示のとき、小さい作品だけでなく、先ほど挙げた《光纏ウ》のアートピースみたいな大きい作品があると、もっと空間を作ることができるし面白いかなと。そうなると形も自由だし、どういう思いで作るのかというところが大事になってきます。蛍手の技法を使いながら、純粋な自分の表現としてどういうものが作れるか挑戦していきたいです。
- 樽田さんの器を使う方へメッセージをお願いします。
最近すごく思うのですが、朝と夕方では光の色や質が違いますし、冬と夏では空気感が違いますよね。作品の見え方も変わるはずです。一つの作品を通して、そうした時間の流れを楽しんでほしいです。
樽田裕史さんコレクションページ:
https://store.hulsgallerytokyo.com/collections/hiroshitaruta