《⽇本酒コラム》第1話:佐賀県

日本の酒器は、陶磁器や漆器、ガラスなど様々な種類があり、その材質や形の違いによって、同じ日本酒でも異なる味わい方、感じ方を楽しめるものです。また、工芸品が地域によってその特徴が異なるように、日本酒もまたその土地ならではのものでもあります。HULS GALLERY TOKYOでは、料理家であり、唎酒師としても活躍する茂村千春さんにご協力いただき、日本各地の酒器を、その土地の日本酒と共にご紹介します。

文:茂村千春

佐賀県の⽇本酒の個性

九州といえば焼酎のイメージが強いと思いますが、⽇本酒もたくさん造られています。なかでも、佐賀県は有名な⽇本酒が数多く造られている銘醸地です。佐賀県は古くからのお⽶の産地で、現代でも広⼤な佐賀平野で良質なお⽶が作られています。また、脊振⼭系、天⼭⼭系、多良⼭系の良質な伏流⽔に恵まれた豊かな⼟地でもあります。こうした美味しいお⽶と上質なお⽔によって醸し出される佐賀県の⽇本酒は、濃醇で⽢⼝の味わい深いものが多いというのが特徴です。これは、濃⼝の佐賀県の料理や、佐賀⽜などに代表される佐賀の⾷材と相性の良いお酒が好まれるようになったためだと⾔われています。

佐賀県では平成16年に「佐賀県原産地呼称管理制度」という制度が作られました。これは、「佐賀県産の原料を100%使⽤」「佐賀県内で作られたものである」ということだけでなく、味や⾹りなど品質の⾯でも厳しく審査され、認定された⽇本酒・焼酎のみが「The SAGA認定酒」の表⽰ができるという制度です。佐賀県の⽇本酒が有名になったきっかけの一つと言えるでしょう。

代表的な銘柄

佐賀県産の⽇本酒で有名な銘柄には、「鍋島」「七⽥」「東⼀」などがあります。 吟醸⾹のある華やかでフルーティなタイプが多く、⽢くて飲みやすいことから、⼥性にも⼈気があります。「鍋島」は、2011 年に世界的なワインコンテスト(IWC)の SAKE 部⾨で最優秀賞に選ばれたことで⼀躍有名になりました。⾹りが⾼く、⽢い⼝当たりが海外でも⾼く評価されています。「七⽥」は同じく国内外で賞を受賞している、歴史のある酒蔵です。⽶作りから蔵で⾏なっている「東⼀」も、全国新酒鑑評会で⾦賞を受賞しています。佐賀県の⽇本酒は、全国的にも世界的にも有名なお酒が勢ぞろいです。

酒器に合わせた銘柄

隆太窯の中⾥太⻲さん作「斑唐津ぐい呑」に合わせた銘柄は、⾺場酒造さんの「能古⾒ 特別純⽶酒」です。

⾺場酒造さんは、「お客様に信頼される蔵元でありたい」をモットーに、⼤量⽣産を⾏なわず、⽣産量を抑えて少数精鋭で酒造りをする酒蔵で、⾷中酒としての味わいを追求しています。

今回ご紹介する特別純⽶酒の原料⽶は、「佐賀の華」という佐賀県の酒⽶ 100%です。飲む⼈の安全安⼼を重んじ、できるだけ農薬を抑えたお⽶を厳選して使っているそうです。「佐賀の華」は、⽐較的新しい佐賀県発祥の酒⽶ですが、上品で旨味がある味わいに仕上がるというのが特徴です。仕込み⽔は、軟⽔である多良⼭系伏流⽔が使⽤されています。

では、さっそくお酒を頂きたいと思います。

まずは常温で。⼝に含むと、お⽶の⾹りや少し⽢いおこげのような⾹りが広がります。カカオのようなほろ苦い⾹りもほんのり感じます。味わいは⼒強くシャープな印象です。酸味やほろ苦さも感じ、重厚感もありますが、あと⼝はキレが良くドライです。

お料理に合わせるなら、焼き⿂やお鍋、⾁料理にも相性が良さそうです。⾷材を際⽴たせ、あと味をスッキリさせてくれるので、脂の乗った⿂や⾁などにはぴったりです。少し温めてみると、シャープでドライだった印象がまろやかになり、お⽶の⽢みや旨味がより感じられるようになりました。今回は 65℃くらいに燗をつけてみました。温めると、カレイの煮付けや鯛のあら炊きなども合いそうだなという印象になりました。

中⾥太⻲さん作「斑唐津ぐい呑」を⼿に取って眺めた時に初めて思ったのは、「たっぷりとした⼤きさが私のようなお酒好きにはぴったり!」ということです。また、⼟の温かみや上品な⾊あい、覗き込んだ時の眺めから、軽やかな印象の⽇本酒や⾹りが華やかなものよりは、しっかりとした飲み⼝の⽇本酒を少し温めて飲みたいと思いました。飲み⼝の厚さも絶妙で、飲み⼼地が良いだろうなと想像させてくれます。この酒器に「能古⾒ 特別純⽶酒」の熱燗を注ぎ、そっと両⼿で包むようにして、手のひらで温かみを感じながら少しずつ⼝に含めば、ほっこりと幸せな気分になることでしょう。

《茂村千春 プロフィール》

大阪府茨木市出身。日本酒好きが高じて2014年に唎酒師の資格を取得。2017年より東京の「エコール辻」で日本料理を学ぶ。2019年5月から料理家である姉・茂村美由樹と始めた「広尾おくむら」での「週1おばんざい」は、好評を得ながら継続中。「日本料理や日本酒の魅力を伝える」ことを目標に、料理教室やイベントなど、精力的に活動を続けている。

■ギャラリーからのおすすめ酒器(佐賀県)

1/中里太亀 斑唐津ぐい呑価格:11,000円)

藁灰釉のとろりとした肌合いが心地よいぐい呑。すうっと入ったろくろ目や、高台の土見せがアクセントになっています。使うほどに味わい深く変化するといわれる斑唐津は、晩酌の良きパートナーとなるでしょう。

 

2/中里太亀 唐津南蛮ぐい呑(価格:11,000円)

無釉の焼締ならではの、土の肌触りと窯変による様々な表情がみどころのぐい呑。薄手でシャープな輪郭は、洗練された印象を与えます。お酒を注いだときの、見込みの銀化した部分がきらきらと輝く景色は必見です。

 

3/中里健太 三島ぐい呑(価格:6,600円)

唐津の砂浜の貝殻で押したという判が、個性豊かな景色を作っています。のびのびと施された刷毛目も楽しく、自然豊かでおおらかな唐津の風土を感じることのできる一品です。

 

4/中里健太 皮鯨ぐい呑(価格:6,600円)

口縁部に鉄絵具であしらわれた黒い縁取りが特徴的なぐい呑。鯨肉の断面に似ていることから「皮鯨」と呼ばれます。その昔、捕鯨が盛んな街であった唐津だからこそ生まれた表現。口縁の鉄が流れて景色となっています。

 

5/三藤るい 黒唐津ぐい呑(価格:11,000円)

艶やかな黒が印象的なぐい呑。焼成中に窯から出して急冷させる「引出」の技法を用いています。引き出す前に一度薪に落とすことで表れる、高台周りの赤い窯変も見どころのひとつとなっています。

 

6/三藤るい 斑唐津ぐい呑(価格:11,000円)

藁灰釉の釉調が美しい、斑唐津のぐい呑。お酒を入れると、乾いていた時には見えなかった表情の変化を楽しめます。端正な形姿や赤みの強い土の風合いなど、見どころの多い一品です。

 

7/三藤るい 斑唐津ぐい呑(彫)(価格:11,000円)

斑唐津に彫を入れたぐい呑。表の赤い窯変のほか、焚き終わる前に薪に落とすことで表れた様々な色の表情がみどころ。唐津焼に特徴的な「×」の彫が、その魅力を引き立てています。

 

8/三藤るい 彫唐津ぐい呑(価格:11,000円)

ほんのりと桃色に焼けた柔らかい釉調に、大胆な彫のコントラストが映えるぐい呑。手に取ると、とろりとした釉の流れや土の趣が直に感じられ、ますます愛着の湧く一品です。