《⽇本酒コラム》第2話:石川県

文:茂村千春

石川県の日本酒の特徴

古くから城下町として栄えた石川県。寒冷な気候と上質な雪解け水に加え、美味しいお米の産地でもあり、日本酒造りの好条件が揃った土地です。石川県で造られるお酒は、以前は甘口が多かったのですが、近年ではキレのあるすっきりした印象のお酒が増えてきています。この地では酒造好適米である「五百万石」も作られていますが、これは元々新潟県発祥の酒米で、辛口淡麗な味に仕上がるという点が特徴です。全国的に辛口淡麗が一世を風靡した時期に、石川県や富山県でも多く作られるようになりました。石川県近港でとれる魚介類との相性も良く、すっきりした味が好まれるようになったようです。石川県が日本酒の銘醸地だとされるのには、もう一つ理由があります。それは能登杜氏と呼ばれる杜氏集団の存在です。高い技術のある作り手と良質な水、酒米の名産地という恵まれた土地と環境によって造り出される日本酒は、綺麗であと口がすっきりしたものが多いと感じます。

その土地の代表的な日本酒

石川県には、前述の通りたくさんの銘酒があります。代表的な銘柄としては、「菊姫」「天狗舞」「手取川」「常きげん」など、全国的にも有名 な日本酒が粒揃いです。清涼な飲み口のものや、お米の香りや旨味を活かしたもの、香り高い大吟醸の造りなど、それぞれの蔵ごとに個性が光る日本酒を醸し出しています。菊姫は、妥協のない日本酒造りを続ける歴史のある蔵です。天狗舞は、 山廃仕込みを全国的に広めた銘柄として有名です。

酒器に合わせた日本酒

今回は、我戸幹男商店の「TOHKA 片口 鶴仙」「TOHKA 猪口 露路」に合わせた日本酒をご紹介したいと思います。この美しい鶴のようなシルエットの片口と、繊細な木目が印象的な猪口には、飲み口が軽やかで、綺麗なあと味のお酒を合わせたいと考えました。そこで私が選んだのは、数馬酒造さんの「竹葉 ちくは」の純米吟醸です。数馬酒造さんは、日本酒だけでなく醤油も作っている歴史のある蔵です。酒米は、90%能登産のものを使用。自社での精米にこだわり、原料を見極めて1%単位で精米して仕込んでいます。環境へも配慮するなど、能登を愛する姿勢が真っ直ぐな酒蔵さんです。

それではさっそく頂きたいと思います。香りは、まろやかなメロンのような、穏やかで丸みのある吟醸香。お米自体がもつ自然な甘い香りもします。口に含んだ瞬間は、香りの印象そのままの優しい甘みが広がり、滑らかな口当たりから徐々にすっきりとしたドライな印象になっていきます。あと口には、鼻から抜ける優しい甘い香りと爽やかな味わいの余韻が残ります。合いそうな料理としては、柿やイチジクなど季節の果物を使った白和えや、茄子の田楽、昆布をたっぷり効かせて引いたお出汁で煮たカボチャなどが挙げられます。あるいは、柔らかく蒸しあげた鶏肉で作った棒棒鶏、酒蒸しにした白身の魚なども相性がよさそうだなという印象です。優しい味の日本酒なので、優しい味付けのものに合わせたいと思いました。

「TOHKA 片口 鶴仙」と「TOHKA 猪口 露路」を初めて拝見した時に思ったのは、曲線が美しいということ。うっとりするような木目と繊細な注ぎ口や飲み口も印象に残りました。手に取ると驚くほど軽やかで、この酒器で何を飲もうかと思案したところ、爽やかで飲み口が軽快、且つ繊細なまろやかさのある日本酒が心に浮かびました。重厚感のあるお酒や、個性的な味わいのものよりは、爽快感のあるお酒がぴったりだと思います。酒器を手に取った時に感じるインスピレーションやイメージでどのような日本酒を飲もうかと考える時間から、お酒好きの楽しみは始まっています。

《茂村千春 プロフィール》

大阪府茨木市出身。日本酒好きが高じて2014年に唎酒師の資格を取得。2017年より東京の「エコール辻」で日本料理を学ぶ。2019年5月から料理家である姉・茂村美由樹と始めた「広尾おくむら」での「週1おばんざい」は、好評を得ながら継続中。「日本料理や日本酒の魅力を伝える」ことを目標に、料理教室やイベントなど、精力的に活動を続けている。

■ギャラリーからのおすすめ酒器(石川県)


1/我戸幹男商店 TOHKA 猪口(価格:4,180円)片口(価格:19,800円)
山中漆器の片口と猪口。光にかざすと透けるほどに薄く挽かれた木地が特徴。繊細な木地挽き技術による、片口の柔らかな曲線美はもちろんのこと、猪口の様々な形状にも見どころが満載です。心地よい軽やかさも魅力のひとつ。


2/田中瑛子 緋映(価格:55,000円)
「緋映(ひうつり)」は、もともと錦鯉の模様の種類を表す 「緋写り」という言葉から命名されました。黒、朱、金の絶妙な色合いは杢目を優しく引き立たせ、魚を連想させる形姿には作家の美意識がよく表現されています。


3/田中瑛子 茜鳥(価格:66,000円)
朝焼けの空に舞う鳥をイメージして作られた片口。栃の杢目と漆の美しい彩りと、つんと上を向いた注ぎ口が印象的です。片口として、オブジェとして、愛らしい存在が日々の暮らしに癒しを与えてくれます。


4/田中瑛子 杯(価格:27,500円)
片口の茜鳥と共にある存在として生まれた、卵型の杯。口縁の見事な曲線が美しく、まるい形は心地よく手に馴染みます。飲み口の場所によって、お酒の味の変化を楽しむことができる一品です。


5/田谷漆器店 ぐい呑 ぼかし(価格:27,500円)
輪島塗のぐい呑。ぼかし塗りの技法を用いた美しいグラデーションの表情がみどころ。幾度も丁寧に漆を塗り重ねる輪島塗の伝統技法を活かして生まれた、現代の暮らしに寄り添う一品。


6/藤八屋 綿糸片口(価格:33,000円)ぐい呑 朱(価格:13,200円)
綿糸と漆のみで作られた、輪島塗の片口とぐい呑。「乾漆」技法によって仕上げられており、温かい手ざわりが癖になる一品です。普段づかいの酒器として活躍してくれることでしょう。


7/杉田明彦 カップ 金彩(価格:16,500円)
様々な用途に使用できるカップ。酒器としては大ぶりなサイズで、たっぷりとお酒を味わうことができるのが魅力です。古物のような色合いと上品な金彩が溶け合う、落ち着いた静かな佇まいに引き込まれる一品。