作り手の声:陶芸家 渋谷英一さん・田原崇雄さん(JP ONLY)
HULS Gallery Tokyoにて2026年4月3日から15日まで開催された渋谷英一・田原崇雄 二人展『二つのまなざし』。山口県萩市を拠点に活動する渋谷さんと、長門市で活動する田原さんは、ともに現代の萩焼を牽引する陶芸家として注目を集めています。歴史ある陶芸の地でそれぞれの表現を追求するお二人に、今回の企画展に合わせてお話を伺いました。
- HULS Gallery Tokyoでは、田原さんは2回目、渋谷さんは初めての展示となります。本展に向けて意識されたことはありますか。
田原さん:渋谷さんの作品は土の質感や造形に特徴があるので、それとは対照的に、釉薬表現など自分の良さが見せられるようなものを準備してきました。

渋谷さん:僕は初めてなので、自分の今やっている仕事、現在形の仕事を見ていただきたいと思いました。普段は大きな作品も多く手がけていますが、今回は日常使いできるものを中心に制作しています。

- 萩焼の作家として大切にされていることがあれば教えてください。
田原さん:萩焼は、使っていくうちに変化していくのが特徴です。それは、使う人の生活に即した側面を持っているということでもあります。その人の人生とともに育ち、成長していく。作品がその人の手元に渡ったとき、一緒に人生を過ごせるように、生活の中にどう入っていくかを考えながら、使うことを意識して制作しています。

渋谷さん:今田原くんが言ったように、萩焼は経年変化が特徴です。よく「萩の七化け」と言われますが、僕はやきものの家に生まれたので、そうした変化を昔から見たり、経験したりしてきました。そういう萩焼の経年変化を、僕も良いなと思ってて。その魅力を自分なりに表現したいと思っています。でも、使うことによる変化には時間が必要です。作家はその時間を待つわけにはいかないので、僕は「時間の付与」とよく言うんですが、時間の蓄積を感じさせるイメージで作品を作っています。それは萩焼の文脈から来ているんですよね。萩の風土や、時間が経って美しくなった街並みなどから受けた印象も作品に表現しています。

- ご自身の独自性についてどのようにお考えですか。表現上のこだわりがあれば教えてください。
田原さん:もともと家が萩焼の仕事をしてきたことがベースにあります。使う素材も昔から使ってきたものや身近にあるものが中心です。それらをどう使い、どう組み合わせるかを大切にしています。例えば流白釉は、萩で一般的な藁灰釉をベースに、松灰釉を掛け合わせています。松の灰は、普段使用する薪が松なので、登窯を焚くことで自然と手に入る素材なんですよ。そうした素材の組み合わせによって、自分なりの新しい表現を模索しています。まったく新しいというよりは、これまでの延長線上にある新しさですね。土づくりや釉薬の調合、掛け方を工夫することで、従来の萩焼とは少し違った景色が生まれるんじゃないかなと思っています。

渋谷さん:「伝統」と言うとさまざまな捉え方があると思いますが、これまで見てきた萩焼、いわゆる一般的なイメージの萩焼には、憧れや崇敬のような思いがあります。でも僕はやっぱり、そういう規範を乗り越えて、作品に「現代性」を持たせることを心がけてますね。
-「現代性」とは、具体的にはどのようなものですか。
渋谷さん:言葉で説明するのは難しいですが、僕が日々生活していく中で感じたことや、僕自身が経験してきたものを作品に付与していきたいと思っています。常にアップデートしていきたいという思いはありますね。もちろん、古いものが良くないという意味ではありません。古いものはそれはそれで素晴らしいですが、僕の価値観では、必ずしもそれを追っていかなくてもいいかなと考えています。

- それぞれ考え方に違いがあって面白いですね。お互いの作品を見て感じることや、刺激を受けることはありますか。
渋谷さん:最近よく思うのが、田原くんの作品は、形がとても洗練されてきたなと。釉薬の美しさがより引き立って見えるようになったと感じます。
田原さん:まだ模索しているところです。今「現代性」という話がありましたが、自分はあまり現代性を考えたことがなかったなと。あまり考えないようにしていたのかもしれません。渋谷さんはよく言ってるので、現代性を強く意識していると思うんですが、どんどんアップデートして、それが作品にマッチしていっているのはすごいなと思います。自分も学びながら、置いていかれないようにしたいですね。
- 今回の展示で、自信作や注目してほしい作品はありますか。
渋谷さん:《地乃器 水指》の質感です。この展覧会で初めてチャレンジした表現で、次につながるかどうかはわかりませんが、可能性を感じています。ろくろで挽いた凹凸のない曲面に、手を加えて少し立体感を持たせた作品です。うまくいけば次へつながるかと。

田原さん:僕は、《纏景の器》というシリーズです。建築の構造などをモチーフに、「景色を纏う器」という意味でタイトルをつけています。新作ではなく、以前制作して一度休止していたシリーズですが、改めて良さを感じ、もう一度取り組みたいと思っています。
渋谷さん:あれは良いよ。
田原さん:ただ、制作に時間がかかるんですよね。

- どのようにして制作されているのですか。
田原さん:ろくろで成形したものにパーツを貼り付けていきます。
渋谷さん:すごく良いけど、別の釉薬も合うと思う。
田原さん:そうですね。昔に作ったものだから、当時は釉薬のバリエーションも少なく、扱いやすい釉薬を使っていました。でもまた改めてチャレンジしてみたいなと思っています。感覚って不思議で、一回飽きたものも、時間が経つと新鮮に見えてくることがありますから。
渋谷さん:このシリーズは香炉とかも面白そうだよね。
田原さん:香炉、やりたいんですよ。ただ、蓋の構造をどうするかなど、事前に考えないといけない部分もあって。普段はあまり考えすぎずに作るタイプなんですが、そういう要素があると手が止まってしまうんです。そこは気持ちを整えて取り組みたいですね。
- ぜひまた拝見できるのを楽しみにしています。最後に、お客様へのメッセージをお願いします。
渋谷さん:今回は出品していませんが、普段は大きな作品も制作しています。そこで培った技術や痕跡を、日常使いの器にも生かすことを心がけて作っています。大きな作品って非日常じゃないですか。一方で、手に取って使う器は日常的なものですが、別物ではなく、きちんと紐づけて作っています。非日常的な表現が日常の器とつながっていることを感じ取っていただけたら嬉しいです。

田原さん:渋谷さんも僕も、一つのスタイルにとどまらず、さまざまなバリエーションの作品を制作しています。渋谷さんと僕でも違いますし、僕の作品の中でもいろいろな形やスタイルがあります。展覧会の魅力はそうした幅を見られることだと思うので、ぜひご覧いただき、気に入ったものを見つけていただけたらと思います。

渋谷英一さんコレクションページ:
https://store.hulsgallerytokyo.com/collections/eiichishibuya
田原崇雄さんコレクションページ:
https://store.hulsgallerytokyo.com/collections/takaotahara
