作り手の声:甚秋陶苑 伊藤成二さん(JP ONLY)

HULS Gallery Tokyoにて20221014日から29日まで開催中の、常滑焼の伝統工芸士である甚秋陶苑・伊藤成二さんの個展「茶器の心」。本展に合わせ、展示作品や茶器作りへのこだわりについてお話を伺いました。

- 常滑焼の茶器の特徴は何でしょうか。

常滑焼は陶器と磁器の間の炻器(せっき)という部類のやきもので、釉薬を使わずに土味を生かした器が多いです。常滑の土は粒子が細かく、細工しやすいので急須作りに向いています。

- 「チャラ」や「藻掛け」など、常滑特有の素材や技法について教えてください。

チャラは、化粧土と釉薬の中間のような性質を持つ原料です。常滑の鋳込みの急須の表面装飾に使われていましたが、盤プロジェクト(現ban)という取り組みをきっかけに、チャラにアレンジを加えて食器などにも応用するようになりました。私もその技術を急須作りに生かしています。

藻掛けは常滑の伝統的な加飾技法です。常滑は海に面しているので、素地に海藻を付けて焼成するとどうなるか、先人が試してみたのだと思います。皆さんがいろんな形で取り入れていますが、私はチャラの上に応用しました。藻の交差したラインが面白いなと。ほかには、牡蠣殻なども使っています。藻と牡蠣殻は、どちらも海の素材なので産地としての常滑らしさを表現できますし、チャラにとてもマッチしています。

- 作陶の際にこだわっていることはありますか。

茶器はお茶を淹れる道具ですから、お茶が美味しく淹れられることを一番に考えて作っています。それと、シンプルで飽きのこないものにしたいと思っています。飾るためのものではなく使って楽しんでもらいたいですし、気づいたら毎日使っているような急須になったらいいなと。自分でも中国茶や台湾茶を淹れて、実際に使って改良しながら製品にしています。中国茶や台湾茶にはいろいろな茶葉がありますから、それぞれに合った急須を作りたいなと思っています。例えば、茶葉の形状によって蓋の寸法を変えたりね。

- 新作の《こっそりシリーズ》について教えてください。

上質なお茶を丁寧に淹れて味わうための小さな急須シリーズです。良いお茶は、一人か二人分くらいの少量で、じっくり時間をかけて淹れるのが一番美味しいと思うんです。美味しいものを内緒で食べるみたいに、特別なお茶を静かに楽しむという意味で「こっそり」という名前を付けました。

- 金彩や銀彩を使った《雅シリーズ》について教えてください。

自分の商品群の中で一番突先になる、方向性を示すような商品がほしいなと思って取り組んだシリーズの一つです。中国の茶壺(急須)に倣い、蓋を外してひっくり返すと持ち手・胴・注ぎ口が同じ高さになるように作りました。こうした中国の茶壺の基本的な決め事を守りながら、かつ日本的な雰囲気を感じてもらえる茶壺にしたいと思っています。チャラに金彩や銀彩を合わせるのは初めての試みです。作為的にならずに、できるだけ自然に見える加飾を心がけています。

- 色使いへのこだわりはありますか。

中国茶の先生にテーマを決めてもらい、毎年新しい色に挑戦しています。同じ色でも濃淡などによって感じ方はさまざまですよね。作り手としてのこだわりは持ちつつ、お客さんからの意見や要望も取り入れながらやっています。

- 茶器を選ぶ際のアドバイスがあれば教えてください。

極平型の急須はお湯が冷めやすいので、日本茶や中国茶の緑茶など、沸騰したお湯を必要としない茶葉に向いています。とても美味しく出るのでおすすめです。烏龍茶などの高温で淹れるお茶には蓋の広くないものが合いますが、使い勝手の良さを考えて、あえて器に対して蓋の口径が大きいものも作っています。お茶は嗜好品ですから、形や色なども含めて気に入ったものを選んでほしいですね。

- 日々の暮らしの中で大切にしていることや習慣にしていることはありますか。

続けることです。「継続は力なり」と言いますよね。ものづくりに限らず、私は何でもやり始めるとそればかりになっちゃうところがあって。美味しいものがあるとそればかり食べたりね(笑)。

- 今回の個展への思いがあればお聞かせください。

今は、特別新しいことに挑戦するというよりも、これまでやってきたことを整理して作品の完成度を上げていく段階なのかなと考えています。そのためには、お茶のことをもっと深く知らなければいけないなと思っています。そしてできることなら、「このお茶はこの急須で淹れると今まで以上に美味しく飲むことができますよ」とアピールできるような急須を作っていきたいです。

- 茶器をお使いいただくお客様へメッセージをお願いします。

作品は自分の子どもみたいなものですから、長く大事に使ってもらえると一番嬉しいです。欠けたときは修理もしています。そうして私の作品を愛用してくれている人が、もう一つ買ってくれたり、誰かへのプレゼントに選んでくれたりして、少しずつですがお客さんの輪が広がっていて、ありがたいなと思っています。

伊藤成二さんコレクションページ:
https://store.hulsgallerytokyo.com/collections/seijiito