作り手の声:ban/佳窯 久田貴久さん(JP ONLY)

HULS Gallery Tokyoにて2022627日・28日の2日間開催された、常滑焼ブランド「ban」シェフ向け展示会。作り手である佳窯(けいがま)の当主・久田貴久さんに、banが生まれた背景や特徴についてお話を伺いました。 

- まず、banのプロジェクトが始まった経緯について教えてください。

もともと常滑は急須や盆栽鉢などの生産が主流で、一部の作家さんを除いて食器はほとんど作られていませんでしたが、123年くらい前に、常滑で長年に渡りやきものを作ってこられた冨本泰二さんが、「常滑の土や素材を使って常滑を代表するような食器を作ろう」と、プロジェクトを立ち上げました。それがbanの始まりです。最初に取り組んだのが平らなお皿だったので、そこから「ban(盤)」という名前が付いたと聞いています。僕はban1回目の試作展示会のあとから参加しました。

-banプロジェクトに参加しようと思ったのはなぜでしょうか?

佳窯はもともと盆栽鉢のメーカーでしたが、私が家業に入って10年ほどで転換期を迎え、盆栽鉢だけでなく食器の制作も手掛けるようになりました。粉引や織部の食器作りを10年ほど続けていた頃、banの試作展示会を見て「これがやりたい」と直感的に思ったのです。常滑らしい色合いが美しく、盆栽鉢を作ってきた技術も活かせると思いました。

やきものの作り方を根本からひっくりかえしたら面白いものができるのではないかと、泥漿(でいしょう)※1を石膏板に流す方法で自然な輪郭のフラット皿を作るなど、banではいろいろな発想を試しながら開発を続けてきました。現在ではろくろ作り・たたら作り・泥漿作りをミックスしながら、その器の形状に合わせて作り方を選択することで、banらしい特徴的な器を作っています。

※1 粘土を液体状にしたもの。

- banはシェフの方にも人気があり国内外のレストランで使われていますが、きっかけは何だったのでしょうか。

ban開発初期の頃、常滑出身のシェフ・成澤由浩氏に器を使っていただけるようになったのが、ひとつの転換点になりました。展示会で成澤氏が料理を盛り付けてくれて、鮮やかな食材の色とbanの相性の良さを実感でき、方向性が見えてきました。また、当時banの器を買える販売店はありませんでしたが、年に1回テーブルウェアフェスティバルで展示をするようになり、イベントを通してシェフの方と知り合い、使っていただけるようになりました。最初は個性の強い器が多かったのですが、シェフの方から感想や要望を聞いて改善するということを繰り返して、今のbanのスタイルができあがっていきました。

- banの特徴は何でしょうか。

一番の特徴は表面に掛けている「チャラ」といううわぐすりです。チャラは常滑焼に特有の素材で、急須の鋳込み成形が始まった昭和40年代くらいに開発されました。鋳込みに適した土は朱泥とは異なるものですが、それに常滑ならではの朱泥土の持つなめらかな触感と朱色の鮮やかな色合いを補うために、チャラが開発されたと聞いています。チャラの良い点は、ガラス質の釉薬と違って、全面に掛けても焼成時の棚板に接地面がくっつくことないということです。底を滑らかに仕上げることができますし、見た目も光沢が少ないので、シェフの方から「料理が映える」とのお声をよくいただきます。

また、光沢のない器はマット釉などの釉薬でも作ることができますが、金属製のカトラリーを使ったときに金属が削れて色が付いてしまうことがあります。チャラはそうしたことがなく、焼締調でありながら傷が付きにくいところも魅力だと思います。

-牡蠣殻を使った装飾も素敵ですが、こちらも常滑特有の技法なのでしょうか?

常滑はやきものの産地では珍しく海に面している町で、例えば干した紐状の海藻を掛けて焼く「藻掛け」など、海の素材を使った伝統技法があります。banの器の開発時にも、チャラ掛けした素地の上にいろいろな素材を載せて焼いてみたところ、牡蠣殻の粉末が面白い色合いと表情になることに気が付きました。牡蠣殻は、常滑の海で行われている海苔養殖の種付けに使われていて、通常使用後には廃棄されてしまうものですが、それを活用しました。貝殻そのものをやきものに利用しているところは、他産地でも見かけることはありますが、粉末を振りかけて装飾に利用しているのはbanが初めてだと思います。お客様からも「常滑らしい景色でいいね」との感想をいただきました。

器自体の色にも常滑らしい特徴があります。盆栽鉢などで使われるくすんだ色の土を使っているので、そのトーンが表面に出てきて、チャラを使っても少しくすんだ色合いになります。世の中にきれいな釉薬はたくさんありますが、僕はこのくすんだ色合いが常滑らしいと思っています。また、青い器は2年ほど前に作り始めたので比較的新しいのですが、シェフの方からは「常滑の海を感じる」と好評です。 

- 最後に、お客様へのメッセージをお願いします。

《楕円皿》や《丸切立盤》などはご家庭でも使いやすいと思います。レストランで食事をしているような気分で、楽しんでお使いいただけたら嬉しいです。

banコレクションページ:
https://store.hulsgallerytokyo.com/collections/ban