作り手の声:木工家 川合優さん・陶芸家 谷本貴さん(JP ONLY)

HULS Gallery Tokyoにて2024119日から27日まで開催された川合優・谷本貴 二人展 『工芸と深呼吸』。岐阜県美濃の木工家・川合さんと三重県伊賀の陶芸家・谷本さんは、かねてより親交があり、今回初めての二人展が実現しました。木工と陶芸という異なるジャンルで活躍されているお二人に、それぞれの作品の見どころや新作についてお話を伺いました。

- 本展のテーマは「深呼吸」。展示に向けて意識されたことがあればお聞かせください。

川合さん:僕はものを作ることの意味をいつも考えているのですが、現代人には自分で何かを作るという行為が足りていないなと感じています。例えば、丸太を割って椅子を作るワークショップを行ったときに、参加された方がすごく楽しそうに夢中で作っていて、作ることに飢えているように見えたんです。今は自分で何かを作らなくても生きていける時代ですが、それでも本質的に人間は作ることを必要としているのだと思います。「深呼吸」というテーマから、そうした工芸の役割を連想して作っていました。

谷本さん:僕はもう少し私的なことで、自分の作っているものについてじっくりと考えてみたのですが、土を揉んでいるときってほとんど呼吸していない感覚なんですよね。「深呼吸」というテーマが、普段の自分の行動を反省する機会になったなと思います。また、僕にとって伊賀焼の魅力的な景色は、朝に山中へ入ったときの景色と似ていて、深呼吸をしたくなるようなイメージなんです。その意味で、伊賀焼の魅力を自然と思い起こさせてくれるテーマでもありました。

- 制作する際にこだわっていることはありますか。

川合さん:木にはいろいろな格があって、例えば同じヒノキでも育ちによって格が違います。また、茶碗に高台が付いているかどうかで意味が大きく変わるように、木工にもそうした形の格があるので、木の格と形の格が同列のものを選んで作るようにしています。木に合わせて形を選ぶ場合もあるし、形に合う木を探す場合もあります。木がどのように育ってきたかは、木目を見るとわかります。針葉樹なら、成長の速い春は色が薄く、成長の遅い夏は色が濃くなります。秋と冬はあまり成長しないので、夏の濃いところを年輪として数えます。この線が細かいほど、ゆっくり成長したということです。それを見た上で、形との相性やバランスを考えていきます。木目の見方がわかると、作品もすごく楽しく見てもらえると思います。

谷本さん:僕は、日本のやきものの魅力は、プラン通りにいかないことを面白さとして受け入れて、ちょっとした遊び心もある、柔らかくて非合理的なところにあると思っているので、そうした美意識を大事にしています。伊賀の焦げた肌や不定形なところなど、不完全だけれどカタルシスを感じるような表現がしたいなと。そういう作為はあるけれど見せないようにやっています。

川合さん:そこは木工と違うよね。木工の場合は、完成形のイメージにどれだけ近づけるかの勝負で、それを超えることはないから。あと、陶芸はスピード感を出せるところも面白いなと思います。ろくろの跡とか。

谷本さん:粘土は柔らかいから、材質の違いがあるよね。木工の凛とした清潔な形は、自分にないものだから、それを見せつけられて悔しい(笑)。木の軽さも羨ましいです。

- 今回の自信作や新作について教えてください。

川合さん:《栗大丸盆》は、できたばかりの作品です。普通だと丸盆はろくろで作るけれど、これは直径が1メートル近くある上に、欠けていて偏重するからろくろが回らない。すべて手で削るのでものすごく大変でした。僕はあまり欠けを作らないのですが、これはもともとの板の幅を目いっぱいに使って、欠けさせたほうが木の良さを活かせると思ったんです。市場から持ち帰って眺めていて、すぐにこの形にしようと決めました。

谷本さん:長石に覆われた《嫌気的》です。酸素を必要としないグロテスクな生物をイメージしています。長石を使った作品は10年ほど前からやっていて、その延長で生まれた作品です。普段は材料と技法を組み合わせて形を作るのですが、今回はテーマを意識して、「深呼吸」がしたくなるようなものを考えました。作品に意味を与えられてよかったなと思います。

- これからやってみたいことはありますか。

川合さん:僕は香りを作品にすることをやっていきたいです。今回はいろいろな木の《香箱》を出品していますが、これで完成ではないし、本当は箱すら要らないくらいで、ただ空気を作品にしたいです。

谷本さん:昨年に五島美術館で伊賀の展覧会を見たのですが、単に花入や水指としてすごいというだけでなく純粋に造形物として面白くて、400年前の方がもっと自由で優れているなと思わされてしまいました。今の伊賀焼は実生活で身近とは言えないものも多いから、お茶道具などもその枠組みから外して捉え直すことで、より魅力的なものを作っていきたいです。

- 最後に、お客様へメッセージをお願いします。

川合さん・谷本さん:お互いにいろいろな素材を使って、四苦八苦しながら作っているので、その姿を見てもらえたらと思います。

川合優さんコレクションページ:
https://store.hulsgallerytokyo.com/collections/masarukawai

谷本貴さんコレクションページ:
https://store.hulsgallerytokyo.com/collections/takashitanimoto