作り手の声:竹工芸作家 小倉智恵美さん(JP ONLY)

HULS Gallery Tokyoにて202438日から23日まで開催中の竹工芸作家 小倉智恵美 個展『表象こころ映す鏡』。京都府在住の小倉さんは、伝統的な編み模様や装飾技法の美しさを最大限に活かしながら、日本の自然に寄り添う作品作りを続けています。HULS Gallery Tokyoでは2年ぶり2度目となる今回の企画展に合わせて、見どころや新作についてお話を伺いました。

- 本展のテーマ『表象―こころ映す鏡―』について教えてください。

普段制作をする中で、自分の美意識やそのときの心持ちが作品の形や佇まいなどに表れてくると感じています。伝統的な模様や技法を使っていても、心の状態やその表現により、作品の仕上がりは全く異なってきます。特に全体の形は作品の印象に大きく影響する部分です。繊細な作業なので常に心を整えて、見た方に美しいと思っていただける、より良い仕上がりの作品にしたいという思いで制作に臨んでいます。

- 今回は主に一点ものの盛籠や花籠を出品いただいていますが、初めて制作した形も多いのですか。

そうですね。例えば《白竹花籠「野遊び」》の編み方と形は初めてです。茶の湯の世界では床の間に野の花を生けることが多いので、伝統的な雰囲気を纏いつつ、楚々とした花が合うような、あまり主張の強くない小花の模様を入れています。道端に咲いている、小さくて目立たないけれど可憐な花をイメージしながら作りました。実は、初めは小花の模様を今とは異なるもので考えていましたが、全体の竹ひごの本数からこの模様が成立しない状態でしたので、本数を変えて土台から作り直しました。型などはなく、手加減で形のラインを出しながら作っていきます。

- DM作品《白竹盛器「春の萌し」》も苦労されたとお聞きしましたが、波の模様が入った素敵な作品ですね。

ありがとうございます。今回の開催時期である春のイメージで作らせていただいた作品です。下の部分は松葉のような模様の「松葉編み」という編み方です。葉っぱや植物のイメージをベースに、春の柔らかな陽気を表現できたらと、上の部分には波の模様を入れました。この大きさ・形の盛籠は作ったことがなかったのですが、サイズが変われば使う竹ひごや部材の幅・厚みなども変わり、適した竹材も変わります。大きな作品では作業時の力加減も難しく、今回は手の取り付けなど苦労した部分もありました。初めての作品に取り組むときは、そのデザインに合った技法の使い方を見極める必要があり、それぞれの特性を掴むまでは大変なのですが、その過程で新たなことを習得できるのだと思います。

- 小倉さんの作品の特徴やこだわっているポイントはありますか。

竹工芸は、長い年月の中でブラッシュアップされてきています。竹という素材の美しさも相まって、伝統的な技法自体にポテンシャルがあるので、その魅力をより引き出せるようにしたいと思っています。例えば、ある大きさの中に模様が7個並ぶか10個並ぶかといったピッチの違いで、全く印象が変わってきます。菊の模様は2種類の幅の材料で編んでいくのですが、幅の比率によっても見え方が異なります。そういうバランスが見せる美しさを意識しています。模様は構造的な部分を兼ねているので、もちろん強度のことも考えて編み方を決めていきます。見た目の美しさと強度を両立させるために、材料作りには一番こだわっています。

- アクセサリー作品についてもお聞かせください。

10年ほど前になりますが、大きい籠などは一部の愛好家や華道家の方に需要があっても、高額ということもあって一般の方にはなかなか売れていなかったので、もう少し身近なものをと考えました。身に着けるものは男女問わず若い方から年配の方まで関心が高く、ほかにないものを求める方も多いです。それまで籠などに使ってきた伝統的な美しい模様を、小さなアクセサリーに乗せる形で作り始めました。リングなどは価格的にも買いやすく、気軽に工芸品に触れていただけるのではと思います。 

- 最後に、お客様へ向けてメッセージをお願いします。

一つの作品の中に、編み模様だけでなく籐のかがりなど、形を構成するためのいろいろな技法が使われています。「ここはこんな風になっていたんだ」と気づくことがあるかもしれませんので、細部を見て楽しんでいただきたいです。使ってくださる方のことを思い、生活の中で少しでも安らぎになるものを目指して、気持ちを込めて丁寧にお作りしていますので、手に取ってお使いいただけたらとても幸せです。

小倉智恵美さんコレクションページ:
https://store.hulsgallerytokyo.com/collections/chiemiogura