作り手の声:陶芸家 坂倉正紘さん・田原崇雄さん(JP ONLY)

HULS Gallery Tokyoにて2024621日から76日まで開催中の萩 坂倉正紘・田原崇雄 二人展 『Lead the Next』。山口県長門市に代々続く深川萩の窯元に生まれ、萩焼の次代を担うお二人に、今回の企画展に合わせてお話を伺いました。

- HULS Gallery Tokyo でのお二人の作品展は今回が初開催となりますが、これまでもお二人で展示をされたことはありますか。

田原さん:世代が近いこともあって、萩の若手作家のグループ展に参加したり、デビューして最初の頃はほとんど一緒に展覧会をしていました。二人展は2回目ですね。

- 萩の作家さん同士で普段から交流が盛んなのですね。

坂倉さん:仲は良いですね。僕は若手の中では後輩の方なのですが、ありがたいことに面倒見の良い先輩が多くて、仲良くしていただいています。制作のことでも相談し合ったり、情報交換をしたりしています。

- 今回の展示に向けて意識されたことがあればお聞かせください。

田原さん:海外のお客様が多いと聞いていたので、僕らの作品はお茶の道具が多いですが、その中でも現代的なものを意識して選んできました。

坂倉さん:お茶碗を作るのが好きなのでお茶碗が多いですが、いろいろなお客様に手に取ってもらいたいと思っていまして、茶陶や花器から日常使いの器まで幅広く持ってきました。

- 自信作や新作はありますか。

田原さん:僕が今力を入れているのは「流白釉りゅうはくゆう」という釉薬で、古い陶片からイメージを得て自分なりに形にしていったものです。萩の藁灰釉という白い釉薬に松の灰をかけて、色を変化させています。試行錯誤する中で発色の仕方がわかってきたので、より良い表情が出せるように少しずつ調整しながら作っています。最初はシンプルな形で作っていましたが、最近はろくろで形を作った後に有機的な削りを入れて、今までにない動きを表現したものが増えているので、見ていただきたいです。

坂倉さん: 新作ではないのですが、白釉を流しかけたお茶碗です。花器に白釉を流しかける表現をお茶碗でやってみようと思い、ここ数年力を入れているものの一つです。自分なりの感覚が掴めてきて、完成度が上がってきたと感じています。

花器では78年前から取り組んでいて、石などで叩いたりはしていますが、自然のコントロールしきれない部分を残して、かっこいい造形になるように作っています。釉薬のかけ方もあまりスタイルを固定せず、作品ごとにかけ方を変えて工夫しています。

- お互いの作品についてはどのように感じていますか。

坂倉さん:私は偶然的な要素も含めて一点ごとに良いものができればという思いで造形していますが、田原さんを見ていると、ピンと張り詰めている形や凛とした形など、目指すものがあってそこに向けて淡々と時間と労力を積み上げていき、クオリティの高いものを生み出しているように感じます。僕にはできないやり方で、それがすごく素敵な作品になっていてかっこいいなと思いますね。

田原さん:正紘くんは自分で掘り出した粘土をそのまま使ってみたり、とにかく土のこだわりが強いですよね。土の荒々しさなど自然の部分と作為の部分をどちらもうまく使っているところや、変化していくライブ感を大事にしているところは自分にない感覚で、すごいなと思いながら見ています。

- それぞれ制作へのスタンスが違って面白いですね。

坂倉さん:そうですね。ほぼ同じ環境で育っているんですけどね(笑)

- 萩焼の魅力はどのように捉えていますか。

坂倉さん:萩焼は茶道に使うお抹茶茶碗などの器を作るために始まっていますので、根底にはお茶の美意識が流れていて、それが魅力の一つになっていると思います。また、個人的なことですが、近年、萩焼の伝統土以外の土を掘ってきて使ってきた反動か、大道土だいどうつちなどの萩焼の伝統的な素材の素晴らしさが感じられるようになってきて、昔ながらの萩焼らしい萩焼にとても興味が向いてきています。固く焼き締まっていない、柔らかいからこその繊細さとか、使うごとに変化していく楽しみとか。周りの人や昔からのお客さんから聞いてきた萩の器の良さを実感するようになりました。歳を重ねたからかもしれません(笑)

田原さん:萩焼は自分が育てている感覚があって、愛着を持って使っているとどんどん変化していくという良さがあります。また、作り手としては懐の深さも魅力です。昔もいろいろな萩焼のバリエーションはありましたが、近年になってまた、素材や方向性は伝統に根差しながらも新しい萩焼が増えてきています。萩焼全体にそうした展開を受け入れてくれる雰囲気があるので、まだまだできることがあるという意味でもいいなと思うようになってきました。

- 坂倉さんは先日、十六代坂倉新兵衛を襲名されました。おめでとうございます。

坂倉さん:ありがとうございます。

- 田原さんも次代の田原陶兵衛を襲名する後継者でいらっしゃいますが、お二人は名前を継ぐことについてどのように受け止めていましたか。

坂倉さん:物心つく前から周りの方々が後継として期待してくださるというのは、独特な環境なのかなと思いますが、仕事場が家の隣にあるというのもあって、私の場合は自然と、将来自分が家業を継ぐのだという意識が年少の頃からありました。迷いや悩みが一切なかったというわけではありませんが、今振り返るとそれほど嫌だと思ったことはなく、ものを作ることは子どもの目にも素晴らしい行為に映っていましたし、やりがいのある有意義な仕事だと感じていました。今回の襲名は、特別なこととして捉えるというより自然体のままでいたいなと思っていたのですが、いざ襲名を迎えると自分が思っていた以上にプレッシャーを感じていることに気づきました。今まではいろいろな土を使って思いつきでやってみたことが成果に結びついていたところもありましたが、これからは得てきた知見やデータを整理して、それをもとに作品を仕上げていく段階に入るタイミングなのかなと感じています。その後はまた新しいことをやりたくなるかもしれません。

田原さん:僕も小さい頃から、親はそれほど言いませんでしたが、やはり周りから後継と言われることが多くて、自然と自分が継ぐのだと思うようになりました。大きくなってきて仕事のことが明確にわかってくると、自分にできるのか、向いているのかという不安が出てくるのですが、腹を括って自分ができることをやろうという気持ちでここまでやってきました。今回正紘くんが襲名して、今父親がいるポジションに自分がいることを想像してみると、父がいるから僕は自由にできているのだろうなと感じます。当主になると、会社としても個人としても全部自分で責任を持たなければいけなくなります。そのプレッシャーもあって僕が襲名したらどんどん保守的になっていきそうな気もしていましたが、今正紘くんの話を聞いていて、襲名をポジティブに捉えてさらに前へ進んでいけるように、その準備をしようと思いました。

- 最後に、お客様へメッセージをお願いします。

田原さん:萩焼は使うことで魅力が増す器だと思うので、たくさん使って育てていくつもりでその器を楽しんでいただけたらなと思います。

坂倉さん:日本にはやきものの産地がたくさんあって、それぞれに文脈や様式がありますが、その中で萩焼は江戸時代が始まる頃に生まれてきた文化的な要素の強いやきもので、いろいろな変遷を経て今の萩焼があります。萩焼の器自体を楽しむと同時に、そこから感じられる深みや背景も想像しながら使ってもらえたら嬉しいです。

坂倉正紘さんコレクションページ:
https://store.hulsgallerytokyo.com/collections/masahirosakakura

田原崇雄さんコレクションページ:
https://store.hulsgallerytokyo.com/collections/takaotahara