作り手の声:陶芸家 森本仁さん(JP ONLY)
HULS Gallery Tokyoにて2025年1月17日から31日まで開催中の森本仁 個展 『陶の風景』。備前焼の窯元で生まれ育ち、美濃で陶芸家としての修行を積んだ森本さんは、備前焼をベースにした作品の他、釉薬を施した器、独自製法の焼締の器「白花」など、多彩な作品を手掛けています。今回の企画展に合わせてお話を伺いました。
- 作品展に向けて、ご自身の中で意識されていたことはありますか。
HULS Gallery Tokyoでは初めての個展なので、備前焼の作品を中心に、備前の土の違った側面を見せたくて作った白花や、弟子入りしていた美濃の豊場惺也先生のところで学んだ釉薬ものなど、幅広く見ていただけたらと思って選びました。
- 備前焼・白花・釉薬もの、それぞれの作品について教えてください。
備前焼はとても原始的なやきものです。父が備前焼を生業としていたので自然と暮らしの中にあったのですが、自分で作り始めたのは美濃での修行から戻った後です。備前を一度離れたことで、それまで抱いていた備前焼の固定されたイメージに捉われず、自分なりにやってみたいことが見えてきました。実際に備前の土を使ってみると、いろいろな表情や質感が出てとても面白く、できることに振り幅があると感じました。原始的でありながら今の生活にも十分馴染むものを作りたいという思いで続けています。
白花は、備前焼によくある白地に赤い線の入った「緋襷」などを見ていて、味を付けずに備前の土が持つ質感の良さを生かしたものができたらと思い、テストを繰り返しながら10年以上前から作り始めて今の形になりました。焼締は「ざらざらしていて使いづらい」「高級」といったイメージで敬遠されやすいこともありますが、白花が焼締を使うきっかけになったら良いなと思っています。
美濃で学んだ釉薬ものは、実は備前焼より先に始めました。備前焼だけでなく学んだことを全部やりたかったというのもありますし、食卓にいろいろな器があると料理も美味しそうに見えて楽しいですよね。さまざまな種類の釉薬をやっていますが、釉薬ものは普段使いの器が中心です。備前の土は釉薬が乗りにくいので、基本的にはそれぞれの釉薬に合った土を選んでいます。釉薬の材料には備前焼の登窯で出た松の灰が使えるので、焼締と釉薬ものを並行してやるのは循環としてとても良いです。両方を行き来することで「これは釉薬ものでやってみたい」「焼締ならこういうことができるかも」というふうに新しい発見もあります。やきもののスタイルごとの枠はなるべく意識せず、柔軟な発想をすることを心がけています。
- 白花の器を使う際、気をつけてほしいことはありますか。
登窯と同様に灯油窯で硬く焼いています。中性洗剤で洗っていただいて問題なく、タワシで繰り返し洗うと肌触りも良くなりより使いやすくなります。これは備前焼の作品も同じで、しっかりと焼き締まったやきものなので、欠けにくいと感じます。水切れも良くすぐ乾きます。汚れは染みにくいですがもし気になったらメラミンスポンジなどである程度落ちます。焼締も釉薬ものも少しずつ表情が変化していくものなので、だんだんと馴染んで味になります。気にしすぎず、使い続けてほしいと思います。
- 作陶の際にこだわっていることを教えてください。
器でも花器でも、自由に楽しんでその人なりの使い方を見つけてほしいので、「こういうものを盛りたい」「こんなふうに花を入れたい」「あの空間に置きたい」というように、想像力を刺激するものが作れたら良いなと思っています。そういうイメージができたら愛着も湧くし、自然と使うようになりますよね。積極的に使ってみたいと思ってもらえるものができていたら理想です。日々の生活で少しでも気分の上がる時間があるのは大事なことだと思うので、その中に自分の作品があったら嬉しいです。
- 日々の暮らしで心がけていることはありますか。
東京などに出たときは美術館や建築を見て回ることが多いですが、普段はルーティンの生活です。自然に囲まれた環境で暮らしていると日々さまざまな変化があるので、「この光が綺麗だな」「この形いいな」など、小さな感動を収集しているのだと思います。それが直接影響を与えているかはわからないですが、蓄積された景色や経験がどこかのタイミングで作品に出るのかなと。普段のリズムで生活を続けていると、今は作りたいもののアイデアが自然と出てきます。
- 最後に、お客様へメッセージをお願いします。
自由に楽しく使ってほしいです。どの器も使えば使うほど自分の器になると感じます。使う人次第でそれぞれの表情になるのが僕は面白いと思うので、その変化を楽しみながら長く使ってもらえたら嬉しいです。
森本仁さんコレクションページ:
https://store.hulsgallerytokyo.com/collections/hitoshimorimoto