作り手の声:陶芸家 高橋奈己さん(JP ONLY)
HULS Gallery Tokyoにて2025年12月12日から27日まで開催中の高橋奈己作品展『たゆたう輪郭』。高橋さんの代名詞となっている、光や角度によって表情を変える美しい造形の作品を多数出品いただいています。今回の企画展に合わせて、作品の見どころやご自身の創作活動についてお話を伺いました。
- 高橋さんの個展は、HULS Gallery Tokyoでは今回が初めての開催となります。本展に向けて意識されたことはありますか。
HULSさんは空間や照明が美しいので、私の作品の陰影が生きると思い、陰影を重視した造形の作品を制作しました。また、会場中心のテーブルには器系を、奥の空間には茶道具を、というように展示構成も意識して作りました。外国のお客様が多いので、金彩系とプラチナ系も多めに作らせていただきました。

- 作品の特徴やこだわりを教えてください。
植物の実や種の、ぎゅっと詰まった造形に惹かれていまして。学生の頃、赤めの土などを使っていましたが、 “白”で私の造形を生かしたいと思い、磁土で作るようになりました。陰影の美しい造形を作りたいという思いで、今までずっと制作を続けています。
- 鋳込み技法を使って制作されているそうですね。
最初、学生の頃は手びねりで作っていました。でも頭の中に作りたい造形が常にあって、磁土で作りたいという気持ちが出てきました。やっぱりロクロでは左右対称のものになりますし、手びねりでは限界があると思い、私の左右非対称の造形を作るには、鋳込みが向いているのかなと思って。
ただ、私の場合、型に命がけではなく、型から外した後に削って整えたり、土を付けたりして、鋳込んだ後に形を微調整しています。工業製品の鋳込みですと、10分以内に泥漿を流しだすと思いますが、私の場合30分以上鋳込んで、生地を厚くしたものを整えています。

- とても手間がかかっているのですね。作品はマットな仕上がりが多いですが、質感にもこだわっていらっしゃいますか。
造形の美を意識していますが、釉薬を掛けると、釉薬に目が行ってしまう。加えて、エッジに丸みができてしまうので、作品の輪郭があまくなります。ラインの1~2mmの違いで造形の印象が変わってきてしまうので、そこはかなり気をつけて作っています。陰影の美しさで勝負したいので、釉を掛けない白磁のままにしています。
- 金彩やプラチナ彩、呉須、黒泥などの作品には、また別のこだわりがありますか。
そうですね。白が一番造形的に私の“らしさ”を表現できますが、金やプラチナの作品も展示することによって互いが引き立ち、相乗効果が起きやすいと思い、色味もプラスするようになりました。

- 普段の生活の中で意識されていることや、インスピレーションの源泉について教えてください。
やっぱり、常に「実」は気になりますね(笑)。植物が好きで、道を歩いていても「あ、実がなってる」って。お野菜でも造形がすごく気になりますしね。自然が作り上げた非対称の形を見ると、「こちら側から太陽が当たっていたのかな」と思ったり。土の中でボコボコと育つジャガイモのように、自然界が作り上げた造形に目が行きます。人間にはなかなか作れない造形美が、自然の中にはたくさん詰まってるので。蓮は仏具でもよく使われるモチーフですが、レンコンも、お花も葉も、みんな美しい造形だなと思って見ています。
- 今回の新作について教えてください。
私は最初に、展示会場で何を置くかをイメージします。今回は、潰れたような造形や、かけらをくっつけ合わせた造形を、畳の展示スペースに置きたいなと思いました。それが《実のかけら》です。展示のバランスを考えたときに、キリっとした作品ばかりだと見る側が疲れてしまうこともあるかなと。《実》ではありますが、かけらのパーツででき上がった作品も、質感が違って面白いかなと思いました。畳の空間で《実のかけら》を見つつ、応接室では茶道具も見られるというのも、いい繋がりかなと思いました。

- 《実のかけら》の風合いは、どのようにして作られているのですか。
あれも型を使っていますが、鋳込みではなくて。型に土を貼って作ったパーツを組み合わせていく方法で造形しています。土は磁土ですが、ベージュがかった耐火度の高い土です。それにシャモットという土を焼いた粉末を混ぜて、荒々しい土にしてから型に貼り、そのパーツを点と点でパズルのように組み合わせています。土が割れた感じのテクスチャーをそのまま生かしながら、瞬間的な感覚で作っている造形ですね。大きくなればなるほど、焼いた後に上側のパーツが落ちて潰れてしまう確率は高くなっていくので、ある程度点がうまく重なるところは重ねて、バランスを調整しながら作っています。
鋳込みのほうは外側をかなり削って整えますが、《実のかけら》はやりすぎると表面の表情が失われてしまうので、そこまで頑張って削ったりはしません。バリ※のような口元の形状もそのまま生かして、質感の面白さを出していますね。
※型成形の際に、縁などにできる余分な粘土の出っ張りや細かい突起のこと。型の合わせ目の隙間から粘土がはみ出したり、成形時に粘土が押し出されたりして発生する。
- 呉須が入っている作品は、どのようにして作られているのですか。
《白磁呉須盤》は《実のかけら》と同じ土を使っていて、荒々しい土を板状にして、厚さを均一にしていきます。ちょっと穴が開いているのもそのまま生かしていますね。それを本焼きした後に呉須を塗って拭き取ると、溝の中にだけ呉須が残って、白とブルーの差がちゃんと出ます。それでもう一度本焼きします。金やプラチナを塗った盃や茶碗も、ベースは《白磁呉須盤》と一緒です。

- 真珠の釉薬を使った作品についても教えてください。
比較的最近取り組んでいるものですね。水指などは、蓋に真珠色の上絵を使っていて、照明を当てた時の質感と色の違いに目が行くようにしています。器では、カップ&ソーサーのソーサーや、蓋物の蓋だけを真珠釉にして、色彩のメリハリをつけたりとか。金やプラチナほど派手ではないですが、真珠釉は良い意味で、白磁の造形と一体化できるような気がしています。

- 今回の出品作品の中で、特に注目してほしいものや、自信作はありますか。
自信作かどうかはわからないですが(笑)、今回は、かけら系が展示スペースとしての一つの空間を意識して制作したものなので、ぜひ見て触っていただきたいですね。それからいつも展開している私らしい作品も見ていただければと思います。
- 最後に、お客様へのメッセージをお願いします。
この美しい照明のHULSさんのところで作品を見ていただきたいです。陰影がより美しく見ていただけると思います。私の造形は360度形が違うので、作品を全体からみていただき、手にとっていろいろな表情を楽しんでいただきたいですね。

高橋奈己さんコレクションページ:
https://store.hulsgallerytokyo.com/collections/namitakahashi
